私達の行く先は天ではなかった。
第陸話 コメート・ファウストの場合①
今日の店の片付けを終えた私は家に入り、かじかんだ手に息を吹きかける。店の片付けくらい手伝ってくれてもいいのに……そう思いながら私は妹の名を呼ぶ。「ミーティア?」
しかし返事はない。ああ、恐れていた事態が遂に起きてしまったのかしら。
私が燃やされた手紙に気が付きそれは確信へと変わる。私は妹の自室へと急いだ。しかし妹は既に首を吊っており、顔が鬱血し、畳には糞尿が散らばっていた。
「あら……早かったわね」
私は自分でも驚くほどに冷静だった。近いうちに「これ」が起こることを理解っていたからだろう。
私は椅子に上り、ミーティアを床に下ろした。そして、ロープとなっている布に何かが書かれていることに気が付いた。
親愛なるお姉様へ
お姉様がこれを読んでいる頃には私は既に息絶えていることでしょう。
私の願いは、お姉様が占い屋を閉めてただ健やかに機を織って生きていて欲しい、それだけだったのです。
いつからか、お姉様が占いを始めた時、私はお姉様との距離が遠ざかるのを感じました。客に対して楽しそうに話すお姉様に、哀しみを抱いてしまったのです。
他のお客様たちに、嫉妬を覚えてしまったのです。
占い屋さえなければ、私がそのように思うこともなかったのだと、そう思うと店が嫌で嫌でたまらないのです。
見ないようにしてきましたが、もう限界でした。
私はきっと、死によって救われる。死こそ、私を救済するもの。
お姉様では私は救えない。それ故、私は今日ここに自殺を決行致します。
先立つ不孝をお許し下さい。そして、また来世で会えたら。数百年、私を傍に置いてくださり本当にありがとうございました。
ミーティア・ファウストより
コメート・ファウストの場合①
2023/02/16 up